黒字倒産という言葉があるように損益計算書だけではわからない部分があります。
資金繰り表の作成及びキャッシュフロー分析などから課題が明らかになれば経営改善のために何をすべきかわかります。
また、金融機関等から資金繰り表の提出を求められている方もいらっしゃるかと思います。資金繰りについて少し説明いたします。

昔から「勘定合って銭足らず」や「黒字倒産」という言葉はよく聞かれると思います。

以下に簡単な例を作成してみました。わかりやすさ重視のため数字はやや大げさにしております。

甲さんは卸売業の会社を設立しました。Xという人気の製品を独自のルートで仕入れることができるようになったためです。

製品Xは1個あたりの仕入単価は10,000円で、売買価格は1個あたり13,000円です。

○○年4月15日に

設立して本格稼働は5月からとなりました。

月ごとの損益計算書はどうか?

月ごとの損益計算書は以下のようになりました。

4月 5月 6月 7月
売上     0 650,000円 1,040,000円 1,690,000円
仕入(売上原価)     0  500,000円 800,000円 1,300,000円
売上総利益     0  150,000円 240,000円 390,000円
人件費     0   60,000円 60,000円 60,000円
家賃 30,000円 60,000円 60,000円 60,000円
その他経費 20,000円 20,000円 20,000円 20,000円
営業損益 ▲50,000円 10,000円 100,000円 250,000円

これをご覧になられてどうでしょうか?私も新しい法人のお客様や会計事務所勤務時代に新しく担当となった法人のお客様の財務の内容を見るときはまず利益が出ているかを見ています。利益が出ていると法人税を主とした税金のことを考えなければならないためです。

次に売上高を見ます。これは売上の規模を見ると同時に消費税の扱いが売上によって異なってくるからです。それから、本業で利益が出ているかという点で営業利益を見たり、粗利がどのくらいかということで売上総利益を見たり、本業以外の収益や費用を営業外収益や費用で確認、特別な損失や利益はあるのかといったことを確認します。

A社の場合は、最初の月こそ利益は出ていませんがその後は順調に利益が出てさらに増えています。売上も増加していて財務内容はとても良いように思えます。

貸借対照表はどうか?

各月の末日における貸借対照表を見てみます。

4月貸借対照表

流動資産の部 流動負債の部
現預金             830,000円 買掛金                  0円
売掛金                 0円 資本の部
固定資産の部 資本金               1,000,000円
敷金              120,000円 利益剰余金              ▲50,000円
資産計             950,000円 負債資本計              950,000円

5月貸借対照表

流動資産の部 流動負債の部
現預金              690,000円 買掛金                500,000円
売掛金              650,000円 資本の部
固定資産の部 資本金               1,000,000円
敷金               120,000円 利益剰余金               ▲40,000円
資産計              1,460,000円 負債資本               1,460,000円

6月貸借対照表

流動資産の部 流動負債の部
現預金               50,000円 買掛金               800,000円
売掛金             1,690,000円 資本の部
固定資産の部 資本金              1,000,000円
敷金               120,000円 利益剰余金               60,000円
資産計             1,860,000円 負債資本計            1,860,000円

過去からの損益の累積額である利益剰余金は4月5月はマイナスでしたが、利益が増えてきたことにより6月にはプラスとなっています。

貸借対照表を見るときによく言われるのが流動比率です。流動資産÷流動負債で計算をして、1年以内に現預金となるものと1年以内の支払いの額を比較して安全性を見る指標です。一般的には200%が理想、150%以上であれば大丈夫であろうと言われています。これが100%未満であれば1年以内に支払う金額が1年以内に確保できていないということで危険というわけです。

A社の6月末の流動比率は(50,000円+1,690,000円)÷800,000円=217.5%で理想である200%を上回っています。

お気づきになる方もいらっしゃるかと思いますが、ある理由により7月分は作成しておりません。

各月の取引の内容(長文になりますのでとばしていただいても大丈夫です。)

以上損益計算書と貸借対照表を見てみましたが、具体的にはどういう取引がおこなわれたのかを以下に示します。

4月の取引

資本金1,000,000円で会社を設立しました。設立にかかる費用は省略します。

事務所兼倉庫を月額60,000円で借りることとして敷金120,000円を支払いました。4月の中途で借りたために4月分の家賃は30,000円となりました。

自分の報酬は5月から月60,000円としました。

その他の経費として月に20,000円かかるとします。4月は中途からですが20,000円かかったとします。

5月の取引

X製品50個を仕入れました。代金は翌月払いです。

X製品は人気のため仕入れた分はすべて売れましたが、代金は翌々月にしてほしいということでそうしました。

上記以外では人件費60,000円、家賃60,000円、その他経費20,000円の支払いを現金でおこないました。

6月の取引

X製品の注文が80個あったため80個仕入れて販売しました。支払の時期と代金の回収時期は5月と同じです。

先月の仕入代金を支払いました。

上記以外では人件費、家賃、その他経費の支払いは先月と同じです。

7月の取引

X製品の注文がさらに増えて130個となりました。そのため130個仕入れて販売しました。

先月の仕入代金を支払いました。

上記以外では人件費、家賃、その他経費の支払いは先月と同じです。

7月分の貸借対照表を載せなかった理由

私が勤務時代の話です。私の同僚の担当しているお客さんに業種や数値などは例とはまったく異なりますが、利益は出ていて流動比率も悪くなく、借入金はありましたが返済も滞りないという会社がありました。社長さんから「一度経営分析をして報告をしてほしい。」というご依頼があったようで、その同僚は頭をひねっていました。

キャッシュフロー計算書が導入されてかなりの年月となりましたが、上場企業は当然としてもどれくらいの企業が作成しているかは不明な部分もあります。キャッシュフロー計算書も何度か作成すればそれほど難解なものではないのですが、苦手とされてる方もいらっしゃいます。元同僚も簡易なキャッシュフロー計算はできるけれど間接法や直接法はよくわからないと言ってました。一番簡単な方法としては「最終損益に減価償却費を足す」という方法があります。減価償却費はお金の支払いのない費用であるため足し戻すわけです。しかし、事例では減価償却費は発生していないので損益の状況は変わりません。

実は7月末の貸借対照表を作成していないのは7月中に資金がショートしたため作成できなかったが正解です。

資金繰り表から見る経営分析

上記の例をもとに資金繰り表を作成してみました。

4月

5月

開始残高

1,000,000円

前月残高

830,000円

敷金支払い

▲120,000円

給与支払い

▲60,000円

家賃支払い

▲30,000円

家賃支払い

▲60,000円

その他経費支払い

▲20,000円

その他経費支払い

▲20,000円

経常収支

▲170,000円

経常収支

▲140,000円

月末残高

830,000円

月末残高

690,000円

6月

7月

前月残高

690,000円

前月残高

50,000円

買掛金支払い

▲500,000円

売掛金回収

650,000円

給与支払い

▲60,000円

買掛金支払い

▲800,000円

家賃支払い

▲60,000円

給与支払い

▲60,000円

その他経費支払い

▲20,000円

家賃支払い

▲60,000円

経常収支

▲640,000円

その他経費支払い

▲20,000円

月末残高

50,000円

経常収支

▲290,000円

月末残高

▲240,000円

上記の資金繰り表をご覧いただければ一目瞭然ですが、経常収支がプラスの月はないことがわかります。損益計算書上は利益が出ていますが資金は減る一方だということです。そして7月にはついに資金が足りなくなるわけです。A社は創業間もないため借入も難しいと思いますので経営者が追加で資金を投入しなければならないということとなります。

このように早期に発見できれば経営改善に向けてどうにかしなければならないと気付くことができ、傷口を広げずに済むかもしれません。

しかし、足りない原因を究明せずに自分で立替払いしたり借入でしのぐというその場限りの経営では気付いた時にはもはや手遅れということになりかねません。

せっかく良い製品の仕入ができていても財務の状況を把握できていなかったために失敗となってしまうのは非常に惜しいと思います。

この例ではわかりやすさ重視のために単純にしていますが、現実には仕入先や売上先が複数で取引条件も相手先ごとに異なることがほとんどだと思います。さらに仕入れた又は製造した製品や商品がすべて売れるとは限りません。その他にも設備投資があった場合や借入がある場合などはさらに複雑です。しかし、資金の流れに着目して細かく分析していくことで必ず課題が見えてくると思います。課題がわかったからといってすぐに改善できないものもあるかと思います。しかし、理解せずに経営が悪化していくのとは明らかに違うはずです。

かなりの文章になってしまいましたが、お読みいただきありがとうございました。

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