消費税のインボイス制度の衝撃!究極の選択を迫られる場合もあります。

令和5年10月1日より消費税のインボイス制度が導入されます。この記事を書いている令和3年11月28日現在においては新型コロナウイルスの新規感染者は日本においてはかなり落ち着いてはいるものの諸外国の状況を見ると予断を許さない状況です。

経済再生のために中小企業向けに給付金等様々な施策がおこなわれていますが、インボイス制度の影響はこれらの支援策を吹き飛ばしてしまうほどのインパクトとなる可能性が大きいです。

ところが、この制度については世間的にはほとんど話題になっていないように感じます。週刊税務通信№3680に掲載されている日本商工会議所が会員の方々におこなった実態調査結果によると、インボイス導入準備等について特に何もしていないと回答された方が約6割となっており、さらに、「そもそも制度が複雑で分からない」と回答した方が4割超でした。

そこで今回はインボイス制度が与える影響についてご説明したいと思います。

端的に言うと売上が1,000万円以下であるため消費税の申告納税義務のない事業者で一定の事業者は

① 消費税の納税義務者となって消費税を納税する。→税負担の大幅増し

② 一定の取引先との取引をあきらめる。→売上の大幅減

 上記どちらかを選択しなければならないということとなり、経営に大きなダメージを負うこととなります。

 

1.具体例

 最初に具体例を挙げてみます。機械の部品を製造するA社の売上は年間880万円です。

A社の仕入や経費のうち消費税のかかるものの合計額は440万円で、人件費は300万円とします。なお、A社の売上高の半分は大手メーカーへの売上です。

 先の究極の選択にあてはめると消費税40万円を納税するか、それとも売上のうち440万円をあきらめるかということとなります。この場合売上の半分をあきらめると利益は0円となってしまいます。さらに経費の中には消費税のかからない人件費もありますから、最終的には300万円の赤字となり存続できないこととなります。その結果、消費税40万円を納税するほうを選択せざるとえないと思われます。

 では、なぜこのようなことが起こるのでしょうか?

 

2.消費税の計算の仕組み

 消費税の納税額は売上にかかる消費税から仕入(経費)にかかる消費税を差引いた金額となります。A社の場合は売上にかかる消費税(880万円のうち80万円)から仕入(経費)にかかる消費税(440万円のうち40万円)を差し引いた40万円が納税額となります。実際の計算はもっと複雑となりますが、ここではわかりやすいように簡略化しています。

 ただし、A社の前々期の売上が1,000万円以下であれば消費税の納付は免除されています。このような事業者を免税事業者といいます。

 

3.インボイス制度の影響

 A社の売上の半分である440万円は大手メーカーであるX社に対するものであるとします。インボイス制度の影響はまずX社の消費税の計算に影響してきます。

 現在は仕入先が誰であっても仕入にかかる消費税を消費税の計算上差し引くことができます。これを仕入税額控除といいます。X社はA社からの仕入にかかる消費税(440万円のうち40万円分)を仕入税額控除の対象とすることができます。

 ところが令和5年10月1日以降はインボイス登録事業者からの仕入でなければ仕入税額控除額に制限がかかります。最初の3年間はインボイス登録事業者でない事業者からの仕入でもその8割は仕入税額控除の対象とできますが、その次の3年間はこの8割が5割となり、その後はまったく控除できなくなります。

 X社からするとインボイス登録事業者から仕入をしたいと考えるようになると思われます。

 

4.インボイス登録事業者とは

 上記3の続きですが、X社がインボイス登録事業者だけと取引をするようになるのであればA社もインボイス登録事業者となればよいということになります。

 ところがここに大きな問題があります。免税事業者はインボイス登録事業者となることができないのです。A社の場合前々期の売上が1,000万円以下であれば免税事業者ですが、今後X社と取引してもらうためにはあえて課税事業者となって消費税を納める必要があるということです。

 A社の場合、売上880万円-仕入(経費)440万円-人件費300万円=140万円が利益となっていました。法人税等の税率を30%と仮定すると最終的な利益は98万円です。

 これがインボイス登録事業者となると追加で消費税40万円を納税することとなるため、経営に大きなダメージを負うこととなります。

 

5.今後の展望

 前述した商工会議所の調査結果によるとX社のような立場の事業者のうち、免税事業者との取引を見直すと回答した事業者は2割超となっていました。さらに免税事業者との取引は一切行わないと回答した事業者は7.4%となっていました。この割合は今後増えるものと考えられます。

 一方A社のような免税事業者のうち2割は課税事業者となると回答しており、さらに廃業を検討すると回答した事業者は4%だったとのことです。また、課税事業者となるように取引先から要請を受けた事業者も1.6%だったとのことです。

 現時点ではインボイス制度の内容の羞恥が不十分ですが、X社のような課税事業者がA社のような免税事業者との取引の見直しは進むと考えられ、その結果A社は課税事業者とならざるを得ないという状況も進むと思われます。廃業まで考えている事業者がいるというのは非常にショックな結果です。

 

6.インボイス制度導入に向けての対応

 対応についてはX社のような課税事業者側とA社のような免税事業者とでは異なってきます。課税事業者については仕入先や経費の支払先がインボイス登録事業者かどうかの確認が必要となります。インボイス制度導入後はインボイス登録事業者が発行した請求書や領収証などには登録番号が記載されることとなっているため、インボイス登録事業者かどうかはそれらの証票を見ればわかります。ただし、本当にインボイス登録事業者かどうかの確認は国税庁のWEBサイトでおこなうこととなります。

 免税事業者との取引については今後どうするのか検討が必要となってくることと思います。

 一方、免税事業者としてはインボイス登録事業者になるかどうかの判断が必要となります。これはぞの事業者の業種や取引先との関係などによって異なってきます。

 ここまではインボイス制度導入に影響のある事業者を例に挙げて説明してきましたが、業種などによってはほとんど影響の出ない場合もあります。例えば学習塾などでは売上先は事業者ではなく生徒さんなどの保護者のような一般消費者です。一般消費者が消費税の課税事業者となることはあまりないかと思います。仮に保護者が個人で事業をおこなっていて消費税の課税事業者であったとしても、お子さんの塾の費用は経費になりませんので消費税の計算には関係してきません。

 飲食店などを経営される方などはお客さんがどういう方であるかということで対応が異なってきます。売上のほとんどが一般消費者の飲食や免税事業者の方の会食などでの飲食などというケースではあえてインボイス登録事業者となる必要はないかと思います。一方、ある一定規模以上の企業の会食などでよく使われるということであればインボイス登録事業者となる必要性も出てきます。

 このように業種などによって影響がほとんどないということもあり得ますが、まずは制度について知る必要があるといえます。知らないままいつの間にかお客さんが来なくなったというのでは手遅れになることも考えられます。

 

7.終わりに

 新型コロナウイルスの影響で経済は疲弊しきっている上にまだまだ先の見通しが立ちません。しかし、インボイス制度導入については国の方では着々と準備が進んでいます。まずは一人でも多くの方がインボイス制度について知ることが一番大切だと思います。長文となってしまいましたが、少しでも参考になれば幸いです。

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